あります。しかも、珍しい話ではありません。サプリメントに、表示されていない禁止物質が混入していたという研究報告を集めて分析した論文が、2026年3月に発表されました。過去16年ぶんの研究44件を調べた結果で、混入は特定の製品ジャンルに偏って繰り返し報告されています。
アンチ・ドーピングの世界では、本人が知らなかったかどうかは問われません。体から禁止物質が出れば、原則として違反は違反です。この「うっかりドーピング」の実態と、自分の身を守るための調べ方をまとめます。

結論:表示は絶対ではない。「知らなかった」は通用しない
- サプリへの禁止物質の混入は、研究で繰り返し確認されている。2026年発表の系統的レビューが、44件の研究報告を分析。最も多かった混入物質は興奮剤で、減量系や筋肉増強系の製品に報告が集中していた
- 意図しなかったドーピングでも、責任は本人。「知らなかった」「サプリに入っていた」は理由にならず、資格停止や記録の抹消といった重い処分が下りる
- 薬は無料で調べられる。薬の製品名や成分名から禁止物質の有無を検索できる「Global DRO」があり、サプリは第三者の認証を受けた製品を選ぶ方法がある
うっかりドーピングとは

うっかりドーピングとは、禁止物質が入っていると知らずに薬やサプリメントを摂ってしまい、ドーピング違反に問われることです。本人に悪意はなく、むしろ健康や体力づくりのつもりで飲んでいた、という例が大半です。
それでも処分が重いのは、アンチ・ドーピングの原則が「ゼロ・トレランス」だからです。禁止物質が検出された事実については、故意か過失かを問わず、原則として違反とみなされます。「知らなかった」「誰かに勧められた」「サプリメントに入っていた」。どの言い分も、検出された事実の前では通用しません。責任は、アスリート本人が負う決まりです。
検査を受けるのはトップ選手だけではありません。国民スポーツ大会などの国内大会、学生の大会、市民レベルの大会でも検査は行われます。指導する立場の人や、子どもにサプリを買い与える親にとっても、無関係の話ではないのです。
研究が示した、サプリ混入の実態

2026年3月13日、学術誌「Frontiers in Sports and Active Living」に、サプリメントへの未表示の禁止物質の混入を調べた系統的レビューが掲載されました。カタールのアンチ・ドーピング機構などの研究者によるもので、2010年から2025年までに発表された研究のうち、条件に合った44件を分析しています。報告は米国7件、韓国6件、ドイツとイタリアが各5件など世界各地からで、日本からの報告も1件含まれていました。

混入が最も多く報告されていた物質は興奮剤で、21件の研究で言及されていました。次いで、アナボリックステロイド(いわゆる筋肉増強剤)が11件。そのほか、β2アゴニスト、利尿薬やマスキング薬(禁止物質の検出を隠すための薬)、ホルモン薬、SARM(選択的アンドロゲン受容体修飾薬)などが報告されています。
製品のジャンル別では、混入の報告は次のように偏っていました。
- スポーツ・パフォーマンス系のサプリ(14件)。効果を早く出すために、刺激剤や筋肉増強系の化合物が表示なしで加えられていることが多いと報告されています
- ステロイド・ホルモン系のサプリ(11件)。筋肉増大や回復促進をうたう製品に、禁止物質そのものが混入している例です
- 減量・脂肪燃焼系のサプリ(10件)。ダイエットピルやハーブティーなどに、痩身薬のシブトラミンやアンフェタミン類似体が混ざっている例があり、心臓や血管への健康リスクも指摘されています
- プロテインやプレワークアウト(4件)。ホエイプロテインなど身近な製品でも、表示されていない興奮剤やプロホルモンが見つかった例があります
- ハーブ・伝統薬(3件)。漢方薬や植物由来の製品に、効き目を高める目的で合成ステロイドや興奮剤が混入している例です
著者らは、「製品の表示と実際の化学組成との間に重大なギャップがある」とまとめ、これを「アスリートの誠実性と公衆衛生に対する継続的な脅威」と表現しました。選手の資格の問題であると同時に、普通に買って飲む人の健康の問題でもある、という指摘です。そのうえで、より厳しい国際的な製造基準や、アスリート教育の強化が必要だとしています。
入り口は、サプリだけじゃない
注意がいるのはサプリメントだけではありません。病院で処方される薬や、薬局で買える市販薬の中にも、禁止物質を含むものがあります。日本薬剤師会などは、漢方薬、外用薬、目薬のような「関係なさそうな薬」にも禁止物質が含まれている場合があると注意を呼びかけています。風邪をひいて大会前に市販薬を飲む、という日常の場面が、そのまま入り口になり得ます。
禁止物質のリスト自体も、毎年更新されます。世界アンチ・ドーピング機構(WADA)は2027年の禁止表をすでに発表していて、2027年1月1日から適用されます。今回の注意喚起で目を引くのは、禁止表に名前が載っていないペプチド(アミノ酸がつながった物質)でも、国の承認を受けていない物質は禁止の対象になり得る、と明記されたことです。「リストに載っていないから大丈夫」という考え方は、ますます危うくなっています。
もう1つ、CBD(カンナビジオール)についての整理もありました。CBD自体は禁止されていません。ただし、大麻草から抽出したCBD製品には、禁止物質であるTHCがさまざまな濃度で含まれている可能性がある、とされています。海外で人気の製品ほど、成分の由来まで確かめる必要があります。
自分を守る、調べ方と選び方

では、どうすれば避けられるのか。道具はそろっています。

薬は「Global DRO」で調べる。Global DRO(グローバル・ドロ)は、薬の製品名や成分名を入れるだけで、その薬が禁止物質を含むかどうかを無料で調べられる検索サイトです。日本で買える薬にも対応していて、日本アンチ・ドーピング機構(JADA)も参加する国際的な仕組みです。大会前に薬を飲むときは、まずここで確かめるのが基本になります。ただし、対象は医薬品だけで、サプリメントは検索できません。ここが一番の落とし穴です。

人に聞くなら、スポーツファーマシスト。JADAなどが認定する、アンチ・ドーピングの知識を持つ薬剤師がいます。検索結果の読み方で迷ったときや、薬が見当たらないときの相談先です。各地域の薬剤師会には、ドーピング防止ホットラインも用意されています。日本薬剤師会の「薬剤師のためのアンチ・ドーピングガイドブック」は毎年更新され、2026年版も出ています。
サプリは、第三者の認証がある製品から選ぶ。サプリメントにはGlobal DROのような公式の検索がない代わりに、第三者機関が製品を分析して公開する認証の仕組みがあります。代表的なものが「INFORMED SPORT」と「INFORMED CHOICE」で、認証を受けた製品のリストが公開されています。国内では、日本分析センターがアンチ・ドーピングのためのサプリメント製品情報を公開しています。買う前に、自分の製品がリストにあるかを確かめるだけでも、リスクは大きく下がります。
出どころの分からない製品を避ける。海外の通販で買う個人輸入のサプリ、成分表示があいまいな製品、「すぐ効く」「劇的に痩せる」をうたう製品は、混入の報告が多かったジャンルと重なります。そして、飲んだものは製品名と時期をメモしておくこと。万一のときに、自分の行動を説明できる材料になります。
まとめ
- うっかりドーピングは、知らずに摂った禁止物質でも本人が責任を負う仕組み。「知らなかった」は通用せず、資格停止や記録抹消の処分が下りる
- 2026年発表の系統的レビュー(44件の研究を分析)では、サプリへの混入で最も多かったのは興奮剤。減量系、筋肉増強系、プロテインなど身近なジャンルにも報告がある
- 入り口は市販薬や処方薬、漢方薬、目薬にもある。WADAの2027年禁止表では、リストに名前のないペプチドも禁止になり得ると注意喚起された
- 薬はGlobal DROで無料で調べられる。迷ったらJADA公認スポーツファーマシストや薬剤師会のホットラインに相談を
- サプリはINFORMED SPORT/INFORMED CHOICEなどの第三者認証がある製品から選び、出どころの分からない海外製品は避ける
僕のひとりごと
僕自身、競技で検査を受ける身ではありません。でも、サプリやプロテインは普通に買うし、風邪をひけば市販薬も飲みます。今回の研究を読んで一番引っかかったのは、表示と中身が違う製品が、特別な裏ルートではなく、研究の対象になるほど普通に報告されている、という点でした。
正直、これまでは「裏面の表示を見れば大丈夫だろう」と思っていました。でも、それは根拠のない安心だったようです。表示は「書いてあること」でしかなくて、「入っていないこと」の証明ではないのだと、ようやく腑に落ちました。
救いは、調べる手段が無料でそろっていることです。薬はGlobal DROで名前を入れるだけ。サプリも、認証のリストに載っているかを見ればいい。ひと手間は増えますが、選手生命どころか健康そのものに関わる話なら、そのひと手間は安いものだと思います。
「自分はドーピングとは無関係」と思っている人ほど、うっかりの入り口に近いのかもしれません。無関係だと思っていた人こそ、一度だけでも調べてみてほしい。それが、この記事を書いた理由です。