ナミハリネズミは人には聞こえない超音波を聞き取れる。交通事故防止に役立つかもしれない

    全体:7月:2週:0日:0

FavoriteLoadingお気に入りに追加
ヨーロッパに住むナミハリネズミ Image credit: DamianKuzdak

 ヨーロッパに生息するナミハリネズミは、人間には聞こえない高音の「超音波」を感知できることが、最新の研究で世界で初めて科学的に証明された。

 これまでナミハリネズミがどの程度の周波数を聞き取れるのかは正確には不明だったが、デンマークやイギリスの研究チームが調査した結果、20kHz以上の音をはっきりと聞き取れることが判明した。

 この発見は、人が聞こえない音を利用して、頻発するナミハリネズミの交通事故防止のための音響装置の開発につながる可能性がある。

 この研究成果は学術誌『Biology Letters』(2026年3月11日付)に掲載された。

ナミハリネズミの超音波感知能力を調査

 ナミハリネズミが超音波を聞き取れる可能性は、以前から指摘されていた。

 仲間同士で「キーキー」という高い音を用いてコミュニケーションをとる様子が観察されていたためである。

 しかし、彼らの聴覚が実際にどの程度の周波数まで反応し、どのような仕組みで機能しているのかはよくわかっていなかった。

 今回、研究の対象となったナミハリネズミはヨーロッパやロシア北西部に広く分布するハリネズミの一種で、別名ヨーロッパハリネズミだ。

 日本でペットとして一般的なヨツユビハリネズミよりも大きく、体長は最大30cm、体重は1kgを超える個体も存在する。

 南デンマーク大学や英オックスフォード大学などの国際研究チームは、ナミハリネズミの聴覚を解明するため、デンマークの野生動物救護センターで保護されていた20匹の個体を対象にテストを実施した。

ナミハリネズミ Image credit:Tine Reinholt Jensen

脳波測定で超音波への高い感度があることを確認

 その結果、ナミハリネズミは最大で85kHzという極めて高い音まで感知していることが判明した。

 人間が聞き取れる音の上限は約20kHzまでである。これを超える音は「超音波」と呼ばれ、人間には聞こえない。

 他の動物の上限と比較すると、犬は約45kHz、猫は約65kHzまでとされる。

 今回の実験データにより、ナミハリネズミはこれらを超える超音波まで感知でき、特に40kHz付近の音に対して最も高い感度を示すことが明らかになった。

 ナミハリネズミは、人間や犬や猫には聞こえない、あるいは聞こえにくい非常に高い音の世界を正確に捉えているのである。

ナミハリネズミの耳の骨 Image credit:Rasmussen et al 2026

超音波の感知を可能にする耳の解剖学的構造

 ナミハリネズミが高い周波数の音を聞き取れる理由は、耳の内部構造にある。

 研究チームが死亡した個体の耳を「マイクロCTスキャン」で解析し、詳細な三次元モデルを作成したところ、以下の3つの重要な特徴が明らかになった。

  1. 高密度で硬い耳小骨: 中耳にある小さな骨の密度が非常に高く、硬い構造をしていた。さらに、鼓膜と骨を繋ぐ関節の一部が固定(癒合)されていた。これらは、超音波のような非常に細かい振動をロスなく伝えるための特徴である。
  2. 小型のアブミ骨 耳小骨の中でも最も奥にある「アブミ骨」が、非常に小さく軽量であった。骨が軽いことで、高周波の速い振動にも素早く反応できる。
  3. 短くコンパクトな渦巻管: 内耳にある、音を電気信号に変える「渦巻管(聴覚に関連する内耳の空洞)」が、他の哺乳類と比べて相対的に短く、コンパクトにまとまっていた。

 これらの特徴は、超音波を頼りに活動するコウモリなどの動物とも共通しており、ナミハリネズミが進化の過程で「高い音の情報を効率的に脳へ送る仕組み」を手に入れていたことを物理的に証明している。

ナミハリネズミの耳の構造 Image credit:Rasmussen et al 2026

超音波を利用した交通事故防止装置への応用

 この聴覚能力の特定は、ナミハリネズミの保護において重要な意味を持つ。

 2024年、国際自然保護連合(IUCN)は個体数の急激な減少を理由に、ナミハリネズミを「準絶滅危惧」に指定した。

 主な死因の一つは交通事故であり、イギリス国内では過去13年間で個体数が約46%も減少している。

道路を横切るナミハリネズミ Image credit:Danmaks Pindsvin WWF Denmark

 今回の研究により、ナミハリネズミが「40kHz付近の音に敏感である」という具体的な数値が判明した。

 この数値を基準に装置を調整すれば、人間には聞こえない音でナミハリネズミに警告を与える「音響装置」の開発が可能になる。

 この周波数は猫にも聞こえるため、猫の飛び出し事故防止に応用できる可能性もある。

 現在、研究チームは自動車業界と協力し、ナミハリネズミを道路や芝刈り機から遠ざけるための装置開発とテストを計画している。

続きを読む...

▼あわせて読みたい
ニューヨークのネズミが、人間には聞こえない超音波で独自の言語を使いはじめた
植物と昆虫の間のコミュニケーション。蛾は植物の発する音を聞いて産卵場所を選ぶ
超音波の子守唄で、火星へ行く宇宙飛行士をコールドスリープに誘導できる可能性
注射の針に変わる皮膚に貼るだけの痛くない超音波パッチが開発される
人間にも特殊能力が使えるかも!コウモリやイルカの超音波能力を利用できるオーディオデバイスを開発

この記事のカテゴリ:知る / 動物・鳥類

引き用元サイト: カラパイア

記事元url: https://karapaia.com/archives/593933.html

 - karapaia , , , , , , , , ,

他の人のお気に入り

推し

新着記事

  1. 人工卵殻でニワトリの卵を孵化させることに成功。絶滅種復活を目指して
  2. ポケモンを知らないお母さんに、説明文だけでキャラを描いてもらった
  3. カリフォルニア最大の山火事、船が島に座礁した男性が助けを求めた発煙筒が原因だった
  4. カリフォルニア最大の山火事、船が島に座礁した男性が助けを求めた発炎筒が原因だった
  5. 浅瀬に取り残された世界最大のタコが救助され、無事海へ帰る。去り際にありがとうの合図
  6. パプアニューギニア沖で海底火山が噴火、新島誕生の可能性
  7. 未解決事件簿:乗組員全員だけが消えた幽霊船、メアリー・セレスト号の謎を科学で検証
  8. 80年前の米軍ミリメシ、戦闘糧食缶を開けてみた
  9. 家事ロボットがついに自宅へ!車輪型ヒューマノイドが量産化
  10. 毎日3回、ベビーカーで散歩をさせろと鳴いてせがむ猫は19歳。
  11. ホモ・エレクトスとデニソワ人の交配による遺伝子変異が一部地域の現代人に残されていた
  12. 探査機あかつきが発見した金星を覆う巨大雲の謎を東京大学が解明
  13. 世界最大級のラジコン旅客機、人が入れるサイズで時速165kmの飛行に成功
  14. 資金難につき、ロシアで宇宙ロケットに商用広告を掲載することを許可
  15. ネパールの道路が格闘場に!2頭のサイがストリートファイト
  16. 夢に出てくる魔物は、最初は無害な存在だが、徐々に脅威的な存在になることが判明
  17. 太平洋の地震が規則正しく起きる理由を解明。断層に天然のブレーキが存在していた
  18. AIとEMSが筋肉誘導。未知の作業のコツをその場で体に教えるスーツが誕生
  19. 大学の卒業写真はワニとキス。幼いころから野生動物保護活動を行っていた女性が記念撮影
  20. コンクリートまみれになったフクロウ、羽を移植する大手術の末、自然へと飛び立つ
  21. サボテンは驚異的なスピードで進化し、新種を生み出していた
  22. 女性がワラワラ集まってきちゃうのか?アックスの男性用芳香スプレーを輸送中のトラックが高速道路で爆発(アメリカ)
  23. 量子コンピュータと量子技術の未来|GPS精度・がん治療・人工光合成まで分かりやすく解説
  24. 太陽が19日間連続で謎の電波信号を発信。その原因が明らかに
  25. メガトンパンチにビンタ!重さ5トンの巨大ロボットハンドが自動車を吹き飛ばす
  26. シェイクスピアが生涯で唯一買ったロンドンの家、360年ぶりに場所が判明
  27. 片耳の猫と片目の猫が最強の仲良しペアに。2匹で1つのニコイチコンビ
  28. 片耳の猫と片目の猫が最強の仲良しペアに。2匹で1つのニコイチコンビ
  29. なぜ人類だけが利き手を持つのか。二足歩行と脳進化が解き明かす左右非対称の謎
  30. ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が16万4000銀河を追跡、宇宙の骨格構造を鮮明に地図化
×